私は幼少時に、都内のカトリック系幼稚園に通っていたこともあり、教会に行くとなんだか心が落ち着く。
私はキリスト教徒ではないのだけれど、祖母がクリスチャンでクリスマスなどには教会の礼拝に連れて行ってもらったこともあり、教会は不思議と馴染み深い存在だ。
大学で建築を学ぶようになってから、建築の勉強や写真を撮るために国内外の教会建築を訪れる機会も多くなった。
前回の記事「アントニン・レーモンドの建築/聖パウロ礼拝堂/聖ミカエル教会/東京女子大学」ではチェコの建築家・アントニン・レーモンドが日本に残した教会建築を紹介したが、この記事では都内の美しい教会を2つご紹介したい。
カトリック碑文谷教会
東急東横線「学芸大学」駅を降りて20分ほど、閑静な住宅街を歩いていると、白い外壁にピンクの装飾、グリーンの屋根がさわやかな印象の教会建築が見えてくる。
「カトリック碑文谷(ひもんや)教会」は、イタリアから1926年に来日したサレジオ修道会によって設立された教会だ。
目黒サレジオ幼稚園を開園した後、1954年にこの教会堂が完成して以来、半世紀ものあいだ地域に親しまれてきた。
幼稚園が併設されているので、平日の午後だとこどもたちの元気な声が響き渡る。
事前に見学の電話をしていたのだけれど、受付の方に一言見学の旨を伝え、礼拝堂の中へ。
深いブルーが印象的なロマネスク様式の礼拝堂で、ジャコモ・フェラーリ修道士による繊細な装飾に目を奪われる。
ロマネスク建築とは、11世紀にヨーロッパ各地で多く造られた建築様式で、天上の都を地上に写し取ろうとした試みがポイント。
天井と壁を一つのものとして考え、横断アーチが天井を支えるのが特色だ。
フレスコ画の天井、12枚の色鮮やかなステンドグラスが荘厳な雰囲気を醸し出す。
聖堂横の入り口にある小祭壇上に掲げられている「江戸のサンタマリア」は、宣教師シドッティ師のもので、東京国立博物館で発見された聖母の絵画。重要文化財で「親指の聖母」とも言われる。
ここ碑文谷教会に飾られているのは複製画だが、これにちなんで「江戸のサンタマリア」に捧げられている。
ミラノの信者から寄付されたという36メートルの高さの鐘楼が目を引く。
日本にいながら、イタリアらしい華やかな空間に身を置くことができる稀有な教会建築。宗教施設なので、見学の際はルールを守って静かに見学して下さい。
【カトリック碑文谷教会 DATA】
住所:東京都目黒区碑文谷1丁目26−24
アクセス:バス- JR目黒駅西口より、東急バス[黒01]大岡山小学校行き→「サレジオ教会前」下車
電車- 東急東横線「学芸大学駅」または「都立大駅」から徒歩約15分
見学時間:9時〜17時
東京山手教会
渋谷の商業施設に取り囲まれた中にぽつんと経つ白い教会は、東京山手教会。渋谷公園通り沿いでパルコの少し手前、無印良品の隣にあり、正面にはアップルストアがあるのが目印だ。
日本基督教団(にほんきりすときょうだん)に属したプロテスタントの教会で、建物は1966年に竣工した。
4階から上が礼拝堂で、ドイツ製のオルガン(AHLBORN HYMNUS 350)を取り囲むように5階、6階にも席が並ぶ。
この宗教施設は、RIA建築綜合研究所・毛利建築設計事務所による設計。設計者の一人、毛利 武信(もうり たけのぶ)は、1925年(大正14年)東京生まれ。
1949年東京美術学校(現・東京芸術大学)建築科を卒業後、渡米しオクラホマ大学建築学部に留学。
帰国後は東京芸術大学建築科 吉田五十八教授の研究室助手を務めた後、1957年に株式会社毛利建築設計事務所を設立した。
一方のRIA建築綜合研究所は、元は山口文象建築事務所として設立されたが、1953年にRIA建築綜合研究所に名称を変更し、現在は株式会社アール・アイ・エーとして日本各地に支社をもつ。
逆三角形のような外観が特徴で、6階建なのだけれど、周囲にビルが多いからか、目にはより小さく映る。
2階には事務室、3階には集会所などがあり、モザイクタイル壁画のある階段ホールから4階の礼拝堂へと上がる。
壁画を制作したのは、この教会で洗礼を受けたという友山智香子氏。中央には十字架があるが、周囲にはお魚や樹木、動物のようなモチーフが描かれ、良い意味で教会らしくなく軽やかな雰囲気。
日曜日の午前には礼拝があり、賛美歌の音色と聖書の言葉が響き渡り、信者の心をあたたかく照らすのだろう。
限られた空間の中で内部空間を確保するために四角錐が四隅に建つという特徴的なつくりになったり、スリット状の窓から光を採り入れたりとモダンな教会建築なのだけど、都心であることを忘れるような不思議な静けさがあるのだった。
【日本基督教団 東京山手教会 DATA】
住所:東京都渋谷区宇田川町19-5
アクセス:JR・東京メトロ・井の頭線「渋谷」徒歩7分
※見学には、電話での許可が必要。