プリミティブとモダンが融合した、杉本博司の代表作「江之浦測候所」

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都内から行く日帰りアート旅におすすめなのが、小田原と熱海のちょうどあいだにある「江之浦測候所」(えのうらそっこうじょ)だ。

アートな旅、というと美術館や芸術祭などを思い浮かべる方も多いだろう。

「測候所」という場所に馴染みのある方も少ないだろうから、初めて聞く方は「測候所」とアートがどういう関係?と疑問に思ってしまう方もいるかもしれない。

2017年の秋にオープンした「江之浦測候所」は、現代美術作家・杉本博司が敷地を設計した壮大なランドスケープ。

美術品鑑賞のためのギャラリー棟、石舞台、光学硝子舞台、茶室、庭園、門などが配置されている。

目次

江之浦測候所へのアクセス

事前にインターネットで入館料を支払うのだが、その際に無料送迎バスも予約できる。

JR東海道本線「根府川(ねぶかわ)駅」から出ているバスで、私は予約した時間より早く着いてしまったのだが、平日の午前中で空いていたのもあり、問題なく一本前のバスに乗せてもらえた。

根府川駅で降りるのは初めてで新鮮。のどかな場所なので、バスの窓から外を眺めているだけで小旅行気分を味わえて楽しい。

バスに10分ほど乗っていると、相模湾に面したかつてみかん畑だった山の斜面に、自然に溶け込むような形で建つ「江之浦測候所」が見えてくる。

杉本博司とは

現代美術作家・杉本博司氏は1948年東京御徒町生まれ、1974年よりニューヨーク在住。活動分野は写真、彫刻、インスタレーション、演劇、建築、造園、執筆、料理と多岐に渡る。

時間の性質、人間の知覚、意識の起源といったテーマを探求した作品を発表し続けている、日本を代表するアーティストの一人だ。

私が杉本博司氏の作品を初めて見たのはまだ10代の頃、2004年に直島で訪れた護王神社。古い神社とガラスの階段のコントラストが印象に残っている。

その翌年の2005年には森美術館で開催された個展「杉本博司:時間の終わり」では、光を主役にしたインスタレーションに数学的な美しさを感じた。

江之浦測候所は構想に10年・工事に10年という年月をかけた集大成の作品ということで、以前から訪れるのを楽しみにしていた。

江之浦測候所の見どころ

いくつかの建築物が点在するなかで、印象的だったものの一つが「夏至光遥拝100メートルギャラリー」。

gallery

海抜100メートルの地点に建設されたという長さ100メートルもの細長い建物で、夏至の朝に太陽が昇る方角に設計されている。

まっすぐに伸びる大谷石でつくられた南側の壁には、杉本博司氏の写真作品「海景シリーズ」が並ぶ。

gallery

反対側のガラス張りの窓からは自然光が降り注ぎ、ギャラリーだけど自然の中にいるような不思議な気分に。

ギャラリーの先端部12メートルは海に向かって持ち出しとなっており、相模湾を見渡せる展望スペースがある。ここでは夏至の日、日の出を目の前で拝めるのだそう。

「夏至光遥拝100メートルギャラリー」と並び、この庭園の軸となっているのが「冬至光遥拝隧道」。

この測候所の構想の元ともなったという鋼鉄製の隧道(ずいどう)だ。

tunnel

隧道とは、トンネルのように細長い地下空間のこと。

海へとせり出したダイナミックなコールテン鋼のトンネルで、こちらは東西が軸となっている。

70メートルの長さの隧道は冬至に朝日が昇る方角に向いており、冬至の日には対面して置かれた巨石を照らし出すという。

菜の花畑の上に立つ「光学硝子舞台」は日の光でキラキラと輝き美しかった。

釘を一本も使わない檜の懸造り(かけづくり)という工法でつくったものの上に光学硝子が敷き詰められたもので、こちらは見学のみ。

イベントなどではここが舞台になることもあり、周囲にはぐるりと観客席が取り囲む。古代ローマ円形劇場遺跡を再現したものだ。

客席に座って硝子の舞台を観ると、まるで舞台が水面に浮いているように見える。

庭園内には様々な「石」が多用されているのが印象的だった。

stones

大理石の生命の樹レリーフや、能舞台の寸法を基本としてつくられた石舞台、フランス旧家の石の階段、円形石舞台など。

石は記憶をもつと言われる。古代〜近代、様々な時代の、様々な場所から集められた巨大な石たちは、これまで経てきた長い年月の記憶を見る人に伝えているように思う。

stone stage

元のみかん山の敷地の高低差を生かした芸術庭園のため、鑑賞するには階段を上ったり、下ったり、まるで軽い登山をしているように、身体全体と五感を使って鑑賞するのがこの施設の特徴でもある。

特に順路は決まっていないので、鳥のさえずりを聴いたり、海からの風を感じたりしながら、プリミティブとモダンが融合した、新しい形の日本庭園を静かに堪能してみてほしい。

mountain

江之浦測候所周辺のランチ・カフェ

江之浦測候所周辺にはランチやお茶ができるカフェなどはなく、私は午前中の早めの時間に江之浦測候所を見学した後、都内へ戻って遅めのランチを頂いた。

もう少し江之浦周辺でのんびりしたい、という方は小田原まで行って海鮮やイタリアンのランチにしても良いし、箱根まで行って湯葉丼のランチも良さそう。

【江之浦測候所 DATA】

住所:神奈川県小田原市江之浦362番地1

アクセス:JR東海道本線「根府川(ねぶかわ)駅」「真鶴駅」「根府川駅」より無料送迎バスあり(要予約)

     「真鶴駅」よりタクシー 所要時間 約10分 料金1,800~2,000円

休館日:火・水曜日、年末年始および臨時休館日

見学時間:事前予約・入替制 午前の部: 10:00~13:00 午後の部: 13:30~16:30

入館料:インターネットから事前に購入

(受付期限はクレジットカード払いは2日前、セブンイレブン払いは3日前まで)
午前の部&午後の部: 3,300円  夕景の部: 2,200円

当日券を利用の場合(2022年7月1日より再開) 午前の部&午後の部: 3,850円  夕景の部: 2,750円

予約方法の詳細は小田原文化財団ホームページへ。

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