釧路市湿原展望台
道東に広がる巨大な湿原、釧路湿原。2008年の冬にレトロな機関車「SL冬の湿原号」に乗って車窓から釧路湿原を眺めたことがあった。
その後、釧路市出身で地元に多くの作品を残している建築家、毛綱毅曠(もづな きこう)のことを知り、ユニークなデザインで知られる彼の建築をいつか見てみたい、と夢想していた。
取材で十勝〜道東方面を旅することがあり、偶然にも釧路市湿原展望台に立ち寄ることができた。
外観は湿原のヤチボウズ(谷地坊主)をモチーフにしており、天井がインパクトのある中央展示室は、曲線を描くコンクリートのひだに包まれ、母親の胎内をイメージしているという。
実際にこの空間に身をおいてみると、優しく包み込まれるような、不思議な感覚に陥る。
建物外観の柱に見られるギザギザした装飾などの幾何学的デザインは、十勝をベースに活動する象設計集団にも似たものを感じる。
近年の日本はわりとクールでスマートな建築物が多いのだけれど、毛綱毅曠の建築は内側からふつふつと熱いものが湧き出てくるような、そんな熱量を感じさせる。
きっと建築当時は賛否両論ある建物だったのだろう。賛否両論あるというのは、それだけやりたいことや作風がしっかりあるということ。それを空想で終わらせず、建築として実現し、35年経った今でも釧路湿原の展望台という機能だけでなく、この建築目当てに訪れる人々が絶えないということが素晴らしい。
移動中だったので釧路市内で建物を見られたのはこの旅ではここだけ。また釧路を訪れることができたら、毛綱毅曠氏の他の作品もじっくりと見てみたい。
【釧路市湿原展望台 DATA】
住所:北海道釧路市北斗6-11
アクセス:
JR釧路駅より車で約30分・釧路空港より車で約18分
営業時間 4月~9月/8:30~18:00 10月~3月/9:00~17:00
建築家・毛綱毅曠について
毛綱毅曠(1941~2001年)氏は北海道・釧路生まれの建築家。1972年に発表した住宅「反住器」で注目を集め、その後「記憶」をキーワードに、東洋古来の風水思想を反映し、時に奇想とも思える個性的な建築を残し、ポスト・モダンの旗手のひとりとして活躍した。
代表作に「屈斜路コタンアイヌ民俗資料館」(北海道、1982年)、「釧路市湿原展望資料館(現・釧路市湿原展望台)」(1984年)、「釧路市立博物館」(1984年)、「石川県能登島ガラス美術館」(1991年)、「くびき駅」(新潟、1997年)、「丸亀市立城乾小学校」(1999年)など。初期は釧路中心に道内の建物を手がけたが、晩年は全国的に作品を残している。
毛綱毅曠氏の設計した建物で、見てみたいのはまず「釧路市立博物館」。
羽を広げたタンチョウヅルをモチーフにした大きな博物館で、ダイナミックな曲線を描くフォルムが特徴。ここでは釧路の自然、歴史を展示から学ぶことができるのだそう。
1985年に日本建築学会賞を受賞した作品だ。
【釧路市立博物館 DATA】
アクセス 釧路駅より阿寒バスで15分「市立病院」下車(徒歩5分)、車で15分
住所 北海道釧路市春湖台1-7
初期の作品として気になるのが、1972年竣工の「反住器(はんじゅうき)」
白い箱状の建物の内部には、また同じ形状の箱が現れるという、毛綱氏自身の母のために設計した個人宅だ。
一見、奇をてらったかに見える建築物だけれど、住宅が密集している地域だからどうすれば光がよく差し込むのか、また釧路の厳しい寒さに対応するためにあたたかさを追求したら、この形になったのだそう。
次に釧路を訪れることがあれば、「釧路市立博物館」と「反住器」を見てみたい。
(「反住器」は個人宅なので外観のみの見学になりそう)
釧路へは2回訪れたことがあるけれど、3回目に訪れる楽しみが増えて嬉しい。