田上義也の建築 〜旧小熊邸/北一条教会〜

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世界三大建築家の一人、フランク・ロイド・ライトに師事し、北海道に数多くの作品を残した田上義也。ライトの影響を受けながらも、寒冷地である北海道ならではの建築を追求した建築家だ。

札幌市内に残る、田上氏の代表作を紹介したい。

目次

旧小熊邸

札幌の藻岩山の麓、ロープウェイの駅に向かう坂を登っていくと、右手に青い切妻屋根の、まるで積み木のようなかわいらしい建物が見えてくる。歴史的建築物好きな私が、札幌に来て感動した建物の一つがこの旧小熊邸。1927年に田上氏の設計によって建てられ、もともとは北海道帝国大学教授農学博士・小熊捍氏の邸宅として使われていた。

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ひし形の小窓などの幾何学的デザインが随所に見られ、ライト建築好きにはたまらない空間だ。

以前はろいず珈琲として使われた時期があり、私が初めて訪れたのは2013年。かつてアトリエとして使われていた二階の部屋もこじんまりとして居心地が良かった。

2018年からは釣具店「ドリーバーテン」となっているが、喫茶スペースも健在。

窓から外が見えるカウンター席も素敵。建物を取り囲む桜の木は、例年5月半ば頃、満開になるとか。この席で珈琲を飲みながらお花見なんて最高だな。

【旧小熊邸 DATA】

住所:北海道札幌市中央区伏見5丁目3−1

アクセス:地下鉄東西線「円山公園」からJRバス[循環円10・11]ロープウェイ線に乗り換え → 「ロープウェイ前」下車、徒歩4分

北一条教会

空に向かってのびる白い尖塔が印象的な、建築家・田上義也設計の北一条教会は、田上氏の代表作の一つ。竣工は1979年。初期の頃の作品に比べてライトの影響は小さくなってきているのだろうか、田上独自の建築へのアプローチが感じられる建物だ。

北一条通りに佇む、白い教会。

柱とフライングビーム(斜め梁)が軽快なリズムをつくり出す。モダンで洗練された印象だ。田上氏自身がキリスト教の信者だったからこそ、生み出された祈りの場なのだろう。

天井とオルガンのデザインが統一されている。

椅子も建物に合わせてデザインされ、色のバランスも計算されている。

教会の床や椅子の色も細部までこだわってデザインされている。

【北一条教会 DATA】

住所:北海道札幌市中央区北1条西13丁目2

アクセス:地下鉄東西線「西11丁目」徒歩7分

田上氏の作品を紹介したので、彼の意外なエピソードも載せておこう。

北海道に縁もゆかりもなかった田上義也が組織にも属さず、建築家としての道を切り開いたきっかけは、意外にもヴァイオリンだった。ライトの帝国ホテル建設事務所で音楽の趣味を共有した技師ミュラーによって音楽学校教師グスタフ・ローンを紹介された田上は、個人指導によってヴァイオリンの腕を磨き、来札後は富貴堂二階を借りてヴァイオリンを教えていた。

富貴堂で偶然田上のヴァイオリンを聴き、その才能に惚れ込んだ豊平館経営者の息子で「札幌音楽協会」の世話役的存在であった杉山正次は、豊平館のクリスマスパーティーでの田上の演奏を依頼した。当時、豊平館は地元経済界、文化界の名士が利用する札幌トップクラスの社交場。建築設計に専念する前の田上はヴァイオリン演奏者として各界と接点をもち、人脈を広げていくようになる。

その後、三重奏団「北光トリオ」のヴァイオリンを担当するようになった田上は、同団ピアニストの紹介で北一条教会の建築委員に引き合わされ、教会の設計を担当することになる。この教会は田上の前期の代表作となり、この教会をきっかけとして宗教建築を始め、様々な建物の設計依頼が舞い込むように。田上義也は音楽家としてのキャリアを通して、自身の建築家としての才能を開花させていったのである。

札幌の建築巡りは、札幌街歩き / 五稜星のある建物を探してみよう の記事もご覧ください。

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