チェコの建築家・アントニン・レーモンドは独創的で温かみのある建築作品を数多く手がけたことで知られる。1888年チェコ生まれの彼はプラハ工科大学を卒業後、1910年にアメリカへ移住。建築家・フランク・ロイド・ライトのもとで学び、1919年に帝国ホテル建設の際に来日。その後日本に留まり、1973年に建築家を引退してアメリカに帰国するまでの間モダニズム建築を数多く残し、その作品は今でも多くの人々を魅了し続けている。前川國男、吉村順三、ジョージ・ナカシマなどの建築家がレーモンド事務所で学んだことからも、日本の建築界に大きな影響を与えたと言って良い。
この記事では国内で見られるレーモンドが手がけた建築のうち、私が特におすすめしたい作品を3つご紹介したい。
立教学院 聖パウロ礼拝堂
まず、一つ目は埼玉県にある「立教学院 聖パウロ礼拝堂」だ。
東武東上線志木駅を降りて歩いていくと、右手に立教新座キャンパスが見えてくる。正門を通ると目の前に見えてくる白い礼拝堂が「聖パウロ礼拝堂」。
チェコの建築家・アントニン・レーモンドによって1963年に建築された。立教高等学校がこの土地に移ってから3年経った後だった。聖パウロとは、つまりセント・ポール、立教のスクール・ニックネームだ。
ピュアで美しい外観のチャペルは、高さ17メートルの放物線アーチが組み合わされてできている。
中に入ると、色とりどりのステンドグラスからコンクリートの壁に虹色の光が差し込み、荘厳な雰囲気が漂う。ちょうどオルガンの練習中で、空高くそびえるチェペルの空間全体に音楽が響き渡っていて心地良かった。ステンドグラスは建築家の妻であるノエミ・レーモンド夫人によるデザイン。
中庭に出ると、高さ31メートルのベルタワーを取り囲むように回廊が続く。パイプオルガンの音色が響き渡るチャペルとは対照的に、中庭と回廊は静かで趣があった。ベルタワーには3つの鐘があり、礼拝の時間になるとその時間を告げ知らせるのだとか。
【立教学院 聖パウロ礼拝堂 DATA】
住所:埼玉県新座市北野1丁目2−25
アクセス:東武東上線 「志木」駅下車 徒歩 約15分
聖ミカエル教会
2つ目にご紹介したいのが北海道 札幌市内にある「聖ミカエル教会」。
住宅地の中で静かに存在感を放つ美しい教会は、
1960年にアントニン・レーモンドの設計によって建てられたもの。
チェコの建築家の作品なのに、どことなく日本的な要素も感じられる。
それは北海道の素材を用いた木が、時を経て自然とつくられた表情だからなのかもしれない。
また教会に温かみを与えている幾何学模様の窓は、アントニン・レーモンドの妻ノエミ夫人がデザインした和紙重ね張りであることも。
中に入ると、祭壇の上の窓から差し込む柔らかい光に包まれる。天井のどっしりとしたトドマツの太い丸太組みはいかにも北海道らしい。
この土地でしかできないデザインはとても理にかなっていて、自然で美しい。
【聖ミカエル教会 DATA】
住所:北海道東区北19条東3丁目4−5
アクセス:地下鉄南北線 「北18条」駅下車 徒歩 約15分
東京女子大学
中学〜高校時代の友人が通っていたことで、訪れることができた東京女子大学キャンパス。美しい歴史的建造物が建ち並び、なんてきれいなキャンパスなのだろう、とインパクトが強かった。これらの建物はレーモンドの戦前の作品として知られ、1924年〜38年に竣工。瓦葺きや白壁で統一され、女子大らしい爽やかで洗練された雰囲気だ。レーモンド設計の建物は7棟あり、文化庁登録有形文化財に登録されている。
上の写真は本館。訪れた時は夕方で、ピンクの空に白い建物が映えていた。左右対称の建築物で、彼が師事していたフランク・ロイド・ライトの「プレイリーハウス」にも通じるものを感じる。レーモンドは自伝で、師匠ライトの影響が強く、そこから抜け出すのに苦労した、と語っている。
チャペル・講堂を見学していると、フランスの建築家オーギュスト・ペレからの影響を感じさせる。ペレはベルギー・ブリュッセル生まれ。RC(鉄筋コンクリート)造という新しい技術を用いて芸術的な表現を探求し、コンクリート建築の第一人者と言われた。ペレとレーモンドは、聖路加国際病院などの設計を共同で行っていたこともある。この東京女子大学の礼拝堂は、ペレの代表作・ル・ランシーのノートルダム教会堂に影響を受けて制作されたのだそう。
東京女子大学のキャンパスを散策していると、レーモンドがライトやペレから影響を受け、モダニズム建築の最先端を生み出そうとしていた過程を感じ取ることができる。
【東京女子大学 DATA】
住所:東京都杉並区善福寺2丁目6−1
アクセス:JR中央線、JR中央・総武線、東京メトロ東西線)「西荻窪」駅 北口より徒歩12分
北口(1番のりば)より関東バス・西10・吉祥寺駅北口行きバス「東京女子大前」下車すぐ
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