建築を学んでいた学生の時、香川県の牟礼にあるイサムノグチ庭園美術館を訪れたことがある。
石そのもののもつパワーを損なうことなく、石を彫刻した作品は有機的で、まるで生き物のようにエネルギーに満ち溢れていたことを覚えている。
彼のデザインした照明もまた彼の彫刻のように有機的な美しさをもち、シンプルで和室によく合う。
そんなイサムノグチが大地そのものをまるごと彫刻してしまった公園が札幌にあることは前から知っていて、ずっと行きたいと思っていた。
雪が溶けて活動的になる初夏、やっと「モエレ沼公園」を訪れることができた。
モエレとは、アイヌ語で「ゆっくり流れる川」という意味。
沼を通り過ぎると、広大な公園と森が広がる。不燃物や廃棄物のゴミ埋め立て地に設計されたとはとても思えない、素晴らしい公園だ。
建築学科で学んでいた初めは、建築物そのものや内部空間に興味があったが、だんだんと庭園やランドスケープデザインに興味が出てきた。
建物ももちろん月日とともにゆっくり朽ちていくが、庭園やランドスケープは季節や天気によってガラリと表情を変える。
そういうものも全部ひっくるめてデザインしてしまうランドスケープデザインに魅せられて、大学の卒業設計では日本庭園を回遊できる美術館を提案、大学院では庭園を研究することになったくらい。
このモエレ沼公園はイサムノグチの彫刻や照明のようにシンプルでありながら、有機的で優しいデザインだった。
お昼前くらいから子どもを連れたファミリーが増え始め、サンゴで舗装されているというモエレビーチには子どもたちの笑い声がいっぱい。
大地の彫刻のアクセントとなっているのがガラスのピラミッドの存在だ。
どこまでも軽やかで、光の加減によって表情を変えるガラスのオブジェのような建物。
なんだか心が透明になっていくような、不思議とピュアな気持ちになれる。
プレイマウンテンという高さ30mの円錐型の山。ゆるやかな坂を上り、頂上に着いてびっくり。
山の裏側はピラミッドのような、古墳のようなデザインになっているのだ。
段々の間にはタンポポが咲き乱れ、風に揺れている。
ピラミッドの形をしているからか、スピリチュアルな雰囲気に包みこまれる。
さらに大きなモエレ沼。こちらは62mもの高さがあり、公園全体だけでなく、札幌市全体を見渡すことができる。
晴れていたから、とっても気持ちのいい眺めだ。
ガラスのピラミッド、プレイマウンテン、モエレ山・・・と3つの大きな山/ピラミッド=錐状のものがあることで、広大なこの公園にはすごく大きなエネルギーが溢れているような気がする。
テトラマウンドという、小さな山のようなクモのような不思議なかたちをした造形。
思わずなんだろうと近づくと、真ん中に芝生の小さな丘が。
ミュージックシェルという白い扇型の建物は野外ステージになっていて、リハーサルをしているのだろうか、解放的な空間で気持ちよい音楽が流れていた。
モエレ沼公園は広大で、こうやってフィールドを移動したり遊んでいると、いつの間にかたくさん歩き、運動していることに気づく。
芝生の上に寝転んだり、イサムノグチデザインの遊具で遊んだり、山に登ったり。無心で遊んでいるうちに想像力が鍛えられそうな、何度も訪れたくなる公園だ。
【モエレ沼公園 DATA】
住所:北海道札幌市東区モエレ沼公園1−1
アクセス:札幌市街地から車で約40分。国道12号、国道275号、道道89号線(環状通)を経由し三角点通を中沼方面に進む。
バス「モエレ沼公園東口」下車、徒歩15分
設計:イサム・ノグチ(基本計画)
イサム・ノグチ財団、ショージ・サダオ(監修)
アーキテクト・ファイブ(設計統括)